「奨学金って、聞こえは良いけど結局は借金だよね?」「卒業後、返せるかどうかが不安で奨学金を利用できない…」そんな風に考えている人も多いのではないでしょうか?
政府主導の給付型奨学金の創設が議論されているとは言え、未だに日本の奨学金の大半は借りるタイプのもので、後々返さなくてはならない性質のお金となっています。
ですが、世の中には“返さなくてよい”奨学金も数多く存在します。奨学金について正しい情報を学び、必要費用を抑えての進学を実現しましょう!
もくじ
- これが本命!? 給付型奨学金
- キミも使えるかも! 免除・減免型奨学金
- 高等教育の修学支援新制度
- デメリットを超えるメリットあり? 返還免除制度
- 代わりに返してくれる!企業返済支援制度
- 職業別 ゼロ円進学の方法
- より詳しい情報を知りたいあなたに!
これが本命!? 給付型奨学金
給付(給与)型奨学金とは、“返さなくてよい”奨学金の代表とも言える奨学金制度です。
名前の通り、採用されると一定金額を“もらえる(給付される)”奨学金制度で、基本的に返済(返還)の必要はありません(返済不要)。
返済不要というメリットがある分、採用基準は高めで、成績優秀、品行方正、健康状態良好などの応募条件がつけられていることが多いようです。
また、出身校や在籍校の推薦が必要であったり、給付対象の高校、大学が指定されていたり、対象地域や分野が限定されていることもあるので、利用を希望する場合は、事前に奨学金実施団体に問い合わせをして、詳しい応募条件を確認しておく必要があります。
採用人数が少なめなことも多いので、早めに情報を入手して、準備を整えていきましょう。
奨学金給付団体は、進学先の学校や地方公共団体、公益法人、民間企業等の各種団体等となっています。地方自治団体の返済不要な奨学金は、都道府県よりも、若者の地元定着を希望する市区町村の方が多く制度を持っていると言われていますので、地元の役所等に問い合わせてみてもよいでしょう。
キミも使えるかも! 免除・減免型奨学金
免除・減免型奨学金とは、入学金や授業料などの学費の一部または全部を“支払わずに済ませてもらえる(免除する)”タイプの奨学金制度です。
その性質上、学校独自の奨学金制度として用意されるのが一般的で、給付型奨学金と比べると、比較的採用の条件が緩やかになっています。
良くある条件としては、入学時や入学後の成績が指定条件以上、学校指定の資格を取得、スポーツや芸術の全国大会で上位入賞、親兄弟の卒業校に入学、などが見受けられ、入学金や授業料の一部または全部が免除されます。
思いがけない条件で利用できる可能性もあるので、志望校の奨学金情報は、事前によく調べておきましょう。
高等教育の修学支援新制度
高等教育の修学支援新制度とは、金銭的な問題で就学が難しい学生を助けるための新しい制度です。令和2年4月にスタートしました。新設の制度ということで注目を集めていますが、適用条件と対象となる高等教育機関(大学・短期大学・専門学校など)が限られているため、自身の状況、進学希望先が対象となっているかの確認が必要です。対象となる人世帯収入が380万円程度までの家庭の学生
(両親・本人・中学生の家族4人世帯の場合の目安。基準を満たす世帯年収は家族構成により異なるため、自身が当てはまるかどうかはシミュレーターで調べてみましょう)対象となる高等教育機関「確認大学等」に認定された、質の高い教育※1を実施する高等教育機関。
(実際に認定されている高等教育機関に関しては、文科省サイトをご覧いただくほか、進学を検討中の学校のウェブサイト等も確認してみましょう。)※1. 学問追及と実践的教育のバランスが取れていること。
注意して欲しいのは、対象者と対象機関が限られていることです。この「修学支援新制度」のことを”高等教育の無償化“と表現する傾向が見られますが、実際には前述の通り制約があります。誰でも支援が受けられるわけではないのは、他の奨学金等の制度と同じです。利用を検討する前に自身が対象になるかチェックしてみましょう。
どのくらいの金額が給付されるの?
既存の給付型奨学金は月額2~4万円程度ですが、「高等教育の修学支援新制度」は「授業料等減免」と「給付型奨学金」の支給を合わせると最高190万円前後になります。また、在学中の過程の家計急変なども対象としている点や、入学金も対象となっており、今までにない画期的な制度と言えるでしょう。
詳細については、文科省の特設サイト等を見てみてください。
なお、この度のコロナ禍の影響を受けて世帯の収入が大きく減った場合や、自分のアルバイトなどの収入が減って就学が困難になる場合、「家計急変」として「高等教育修学支援新制度」や「貸与型奨学金」に申し込むことができるようです。
デメリットを超えるメリットあり? 返還免除制度
返還免除制度とは、定められた条件を満たすことで、奨学金の一部または全部の返済が免除される制度です。
看護系の専門学校や大学でよく見られる制度で、看護師資格取得後、指定病院に一定年数勤務するという条件を満たすことで、奨学金の返済が免除されるという形式が一般的です。
看護系の他、人手不足に悩む各種業界や、若者の地元離れが進む地方自治体でも同様の制度が用意されていることがあります。また、医学部の地方枠入試に、同趣旨の修学資金貸与制度が付随する場合もあります。
卒業後の就職先が制限される、指定条件を満たせなくなった場合に借入金の一括返還をしなければならない、などのデメリットはありますが、学費を抑えながら有用な資格が取れるというメリットは大きく、利用を検討する価値がある奨学金制度だと言えます。
返還免除(返還支援)制度例
医療系・福祉系修学資金
医療・福祉系の資格を取得する学校に設けられている制度。その特徴は、地方自治体が指定した施設で働くなどの一定条件を満たすことで、返還すべき修学資金の全額が免除となることです。
制度を利用するための条件は、その地方自治体に居住しているか、または資格取得のための指定養成施設がその自治体にあることなど。自治体によって修学資金を貸し付ける対象資格が異なったり、同じ資格を対象としていても内容が異なる場合があるため、注意が必要です。
医療系・福祉系の専門職を目指している方は、住んでいる自治体や志望校のある自治体でどの資格を対象としているのかを事前に調べておきましょう。
また、大きな医療法人グループや地域の医師会が同様の奨学制度を用意していることもありますので、志望校の奨学金制度の確認もしっかりとしておくとよいでしょう。
【対象資格の例】
医師、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、保健師、作業療法士、理学療法士、臨床工学技士、臨床検査技師、診療放射線技師、言語聴覚士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、保育士など
※自治体によって対象資格は異なります
Uターン促進
大都市圏以外の地方自治体では、人口減少に歯止めをかけるため、地元での就職を条件に、貸与型奨学金の「返還金」の一部を肩代わりする制度を設けているところがあります。このタイプには、自治体独自の「Uターン促進」と「地方創生枠」を利用した日本学生支援機構の奨学生に対して自治体が返還を支援するパターンがあります。
Iターン歓迎
出生地以外の地域で就職することを「Iターン」と呼びます。その「Iターン」を促進するために、貸与型奨学金の返還支援をする制度を設けている自治体があります。最近増えている制度で、勤務先または本社がその自治体にあるなどの条件があります。就職を考える際には、そうした制度の有無にも注意して情報収集に努めましょう。
「地方創生枠」を利用した奨学金制度
「人口減少克服・地方創生」という課題に取り組むため、総務省と文部科学省が連携して平成28年度に創設した奨学金制度。地方自治体が設置する基金が、日本学生支援機構第一種奨学金の利用を希望する学生を地方創生枠で同機構に推薦し、優先的に採用してもらう制度です。卒業後、地元企業に就職すれば、基金が奨学金の全額または一部の金額を本人に代わって返還します。なお、制度の有無、詳細は自治体ごとに異なるので確認が必要です。推薦人数1都道府県あたり各年度上限100名対象学校種大学、短期大学、大学院、高等専門学校、専修学校専門課程奨学金の種類日本学生支援機構第一種奨学金(無利子)要件日本学生支援機構一種奨学金の貸与基準および各自治体の基金が定める基準を満たすこと
代わりに返してくれる!企業返済支援制度
学生時代に貸与型奨学金(返さなくてはならない奨学金)を利用した社員を対象に、奨学金返還(返済)の肩代わりを行う企業が徐々に増えています。
対象者にとってはもちろん、
- 優秀な人材確保
- 早期離職の防止
- 社員のモチベーションの維持
- 社会への認知度や企業イメージの向上
など、企業側のメリットも多い制度となっています。
一般に貸与型奨学金は給付型よりも採用条件がゆるく、これらの制度を活用できれば、進学のチャンスは大きく広がります。
企業による奨学金返還の肩代わりの方法はさまざまですが、大きく以下の2タイプが主流です。(1) 会社の規定の範囲内での金額を毎月支給する奨学金の返還義務をもつ社員に対し、規定範囲内の金額(上限3万円など)を給与に上乗せして毎月支給します。(2) 一度にまとまった金額を支給する奨学金の返還義務をもつ社員の勤続年数が規定年数に達した際、未返還分に対しまとまった金額(上限100万円など)を支給します。
これらの制度に惹かれて入社する社員も珍しくなく、優秀な人材を確保する手段として、奨学金返済支援制度を活用する企業は今後も増えていくものと見られています。
優秀な人材の長期確保の動きには、地方自治体も注目しており、例えば京都府などでは「就労・奨学金返済一体型支援事業」において府内の奨学金返還負担軽減制度を設ける中小企業等に対し、当該企業の負担額の一部を支援するとして参加企業を募集しています。
このように、貸与型奨学金を利用して進学をした際も、就職先によっては自己負担を大きく減らし、実質的なゼロ円進学に近づくことができるため、将来の就職活動の際には、そのような制度に目を向けてみることをオススメします。
職業別 ゼロ円進学の方法
“返さなくてよい奨学金”については分かったけど、どの制度が自分に合っているのかよく分からない、という人も少なくないかと思います。
ここでは、どうしたら「学費ゼロ」で進学ができるのかを「職種」と「制度」から具体的に示していきます。
「看護師」をめざしてゼロ円進学!
高齢社会の進行や「医療の質」の維持の必要性もあり、他分野と比べ、看護師向けの奨学金制度は数多く設けられています。
中でも「病院奨学金制度」は、看護学校卒業後、一定期間(一般的には貸与を受けた年数と同等の期間以上)指定病院に勤務することにより奨学金の返還が免除になる「ゼロ円進学」向きの奨学金制度と言えます。
看護師の“ゼロ円進学”モデルケース
○支出
・看護系専門学校(3年制)の平均総学費:約292万円
○収入
・医療法人A「病院奨学金制度」の貸与額:月額9万円(無利子)
※3年間で324万円(9万円×36カ月)
モデルケースの通り、平均的な学費の看護専門学校であれば、奨学金だけで“学費ゼロ”の進学を実現することができます。
また、看護専門学校では安価な寮が設置されていることもあるため、うまくすれば奨学金だけで学費、生活費をまかなう、完全な「ゼロ円進学」を実現することも夢ではありません。
加えて、看護師向けの奨学金制度には、地方自治体が実施する「看護師等修学資金制度」もあります。この修学資金は、公的機関以外の他団体が実施する奨学金と併用可能な場合があるため、上手く組み合わせることで学費が高めの看護専門学校でも「ゼロ円進学」を実現できる可能性があります。
このように、メリットが大きい看護師向け奨学金制度ですが、その反面「将来の職場が決まってしまう」「返還免除の期限が来る前に転職、退職をすると一括返還の義務が生じる場合がある」などのデメリットも存在します。
ですので、奨学金を利用する際には、各制度のメリットとデメリットを把握し、最優先事項は何かを考えて、利用する奨学金制度を選んでいきましょう。
重要視すべきは、金銭的負担をなくすことなのか、それとも勤務先や勤務内容なのか―。進学後、卒業後に後悔しないよう、できるだけ多くの情報を収集し、さまざまな進学パターンや学費調達方法をシミュレーションしておきましょう。
「介護職」をめざしてゼロ円進学!
高齢社会の進行に伴い需要が高まる介護職ですが、実際の就業者は慢性的に不足しています。その不足を補おうと、政府や介護業界がさまざまな奨学金制度を設けて人材確保に努めています。
介護職にも、看護師における「病院奨学金制度」と同様の奨学金制度があり、大学や専門学校などの養成施設卒業後、一定期間指定の病院や福祉施設に勤務することにより奨学金の返還の免除を受けることができます。
ただし、看護師向けのものと比べて貸与額が低めのため、この奨学金だけで「ゼロ円進学」を実現することはできません。そのため、日本学生支援機構の給付型奨学金などを併用して“学費ゼロ”を目指す必要があります。
介護職の“ゼロ円進学”モデルケース
○支出
・介護系専門学校学校(2年制)の平均総学費:約203万円
○収入
・社会福祉法人A「奨学金制度」の貸与額:月額5万円
※2年間で120万円(5万円×24カ月)
・日本学生支援機構の給付型奨学金(給付奨学金第Ⅰ区分):月額7万円5,800円
※2年間で182万円(7万5,800円×24カ月)
それぞれの奨学金には規定があり、併用できるものとできないもの、応募資格が得られるものと得られないものがあるため、どのような組み合わせが利用できるか調べてみましょう。
また、厚生労働省「介護福祉士等修学資金貸付制度」のように、地方自治体が運営する介護職向けの奨学金制度も存在します。こちらも養成施設卒業後、指定施設で一定期間働くことで奨学金が免除されるというものです。都道府県により詳細が異なる場合があるので、必ず自分の住む都道府県の制度を確認しましょう。
その他、病院等で働く介護補助員に対し、資格取得のための学費支援が行われるケースもあります。学費は勤務する病院等が貸与しますが、養成施設卒業後、そこに勤務すれば給与に返済額と同額の奨学手当が加算されるため、実質的に学費がかからない制度です。
「薬剤師」をめざしてゼロ円進学!
薬局や製薬会社はもちろん、近年ではスポーツ分野(ドーピング防止・啓発)にまで活躍の場を広げている薬剤師。しかし、6年間という修業年限の長さと1,100万円超という学費(私立大学薬学部の平均額)の高さがネックとなり、気軽には目指せない状況があります。
日本で最も一般的な日本学生支援機構の貸与奨学金を利用するにしても、無利子の第一種奨学金だけでは学費をまかないきれないため、できれば“返さなくてよい奨学金”を活用して、少しで負担を減らしていきたいところです。
中でも有力なのは、地方自治体が実施する奨学金。薬剤師不足に悩む地方自治体が、薬学生対象の「返還免除型」の貸与奨学金制度を実施する事例は少なくありません。貸与を受けた学生は、薬剤師資格を取った後、自治体指定の病院等で一定期間の勤務をすることにより、奨学金の返還が免除になります。
薬剤師の“ゼロ円進学”モデルケース
○支出
・私立大学薬学部(6年制)の平均総学費:約1,138万円
○収入
・A市総合病院「薬剤師奨学金」の貸与額:月額10万円(最大6年間)
※6年間で720万円(10万円×72カ月)
・日本学生支援機構の給付型奨学金(給付奨学金第Ⅰ区分):月額7万5,800円
※3年間で545万7,600円(7万5,800円×72カ月)
地方自治体の奨学金制度(修学資金制度)の内容は自治体ごとに異なります。応募対象や窓口、他団体の奨学金利用の可否などさまざまですので、事前によく確認することが大切です。
また、民間の病院や薬局を経営する企業が上記のものと同様の奨学金制度を設けている場合もありますので、探してみるとよいでしょう。
ただし、薬学生対象の奨学金は高額な場合が多いので、卒業後、約束を果たせないと、大きな負債を抱えることになってしまいます。ですので、就職を条件にした「返還免除型」奨学金を利用する際には、くれぐれも内容をよく検討し、事前に多様なシミュレーションをして納得できるものを選んでいくようにしましょう。
「自動車整備士」をめざしてゼロ円進学!
現代社会の交通や流通の要である自動車。近年、その自動車の安全な運行を支える自動車整備士の不足が問題となってきています。加えて、電気自動車やAI搭載の自動運転車などの新技術への対応の必要性もあり、自動車整備士の育成・確保は、喫緊の課題と言われています。
そうした状況を踏まえ、自動車業界は自動車整備士の処遇改善や人材育成に取り組んでおり、自動車整備士を目指す学生に対し「企業奨学金」制度を設けて、修学を後押ししています。
基本的には、将来の就職を条件として、企業が学生に学費を貸与する制度で、貸与を受けた学生は、二級自動車整備士国家資格を取得し卒業した後、その企業で一定期間働くことにより、貸与額の一部あるいは全部が返還免除になります。
貸与額や免除額などの条件、申込時期、学校ごとの利用可能制度はさまざまであるため、事前に各学校の奨学金制度をチェックし、申込みミスを防ぐようにする必要があります。
自動車整備士の“ゼロ円進学”モデルケース
○支出
・自動車整備系専門学校(昼間課程・2年制)の平均総学費:約241万円
○収入
・B社「奨学金制度」の貸与額:200万円
※卒業後、B社に7年間勤務で全額返還免除
・K校独自の給付奨学金「成績優秀者特待生」:50万円
また、数こそ少ないものの、昼間課程よりも総学費が安くなる夜間課程を持つ自動車整備系の学校も存在します。修業年限は3年間になるものの、昼間に学費や生活費を稼ぎながら学べるため、資金調達の選択肢を増やすことができます。
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